膝の痛みに対する新たな治療選択肢。体本来の治癒力を引き出すACP PRP療法。

中川 智之 先生

ご略歴

慶友整形外科病院 膝関節センター センター長

プロフィール

大阪市立大学医学部を卒業後、藤沢湘南台病院を経て、善衆会病院で治療を行う中、群馬大学 で機能形態学について学び、慶友整形外科病院にて現在に至る。

資格認定等

日本整形外科学会専門医、日本体育協会スポーツドクター、大東文化大学ラグビー部チームドクター、三菱重工相模原ダイナボアーズチームドクター

本インタビューの概要

変形性膝関節症は、生活の質を著しく低下させる可能性のある病気です。

病気の進行とともに膝の関節炎や変形を生じ、痛みを感じたり、足の曲げ伸ばしが困難になります。

様々な原因があり、早期に正しい診断と適切な治療を行えば、進行を遅らせることができます。

近年では、患者さんの血液を使ったACP PRP療法などの再生医療が利用されるようになり、変形性膝関節症の治療の幅が広がっています。

そこで、膝関節の疾患の治療がご専門の慶友整形外科病院の中川先生に変形性膝関節症の発症の原因や現在の治療法について、教えていただきました。

変形性膝関節症と原因と治療法、新たに加わった再生医療の可能性

Q

変形性膝関節症とはどんな病気ですか?

A

変形性膝関節症とは、膝関節の軟骨の質が低下し、少しずつすり減り、歩行時に痛みを生ずる病気です。


初期の症状では、軟骨がすり減ることによって『関節炎』がおき、その炎症によって膝の痛みや腫れが引き起こされます。


さらに、病気が進行すると膝をしっかりと伸ばしたり曲げたり出来なくなり、歩行も困難となる可能性もあります。


現在、日本では変形性膝関節症の症状を自覚している患者さんが約1000万人、レントゲン診断による潜在的な患者さんを含めると約3000万人いるとされおり、変形性膝関節症は国民病といわれています。


その背景には、平均寿命の伸長が関連しています。加齢に伴い軟骨の質が低下し、軟骨は多少なりともすり減っていきます。


軟骨が多少すり減っていても痛みがなければ問題ありませんが、生活に支障のある痛みを感じるようであれば、整形外科の受診をお勧めします。

Q

変形性膝関節症の原因にはどのようなものがありますか?

A

変形性膝関節症は大きく分けて一次性と二次性のものに分けられ、明らかな原因がないものが「一次性」、病気やケガなど原因が明らかなものが「二次性」とされます。


一次性の変形性膝関節症は、加齢とともに膝の関節軟骨がすり減ることで発症するもので、肥満などが関係しているとされています。


変形性膝関節症の患者さんの大部分は「一次性」です。


二次性の変形性膝関節症は靭帯断裂・半月板損傷・骨折などの関節構造の損傷をきっかけに発症することが多いですが、その他にも関節リウマチ、化膿性関節炎などの炎症性の疾患、骨壊死、血友病による関節血症などが原因となります。

Q

変形性膝関節症には、どんな治療法があるのでしょうか?

A

変形性膝関節症の治療は保存療法と手術療法に分けられ、基本的には保存療法(手術によらない治療)が主になります。


保存療法

膝関節は、体重を支える関節であるにも関わらず、非常に不安定な関節といわれています。


そのため、まずは膝周囲の筋力の強化や柔軟に保つためのストレッチなどの運動療法が非常に重要です。更に肥満の方はこれらと共に減量を行います。


例えば、3kgの体重を減少させれば、歩行時の膝の負担は9㎏程度軽くなります。


痛みが強くて運動療法はおろか、日常生活における活動性も低下してしまうような場合は、痛み止めの内服薬や湿布、ヒアルロン酸の関節内注射により、痛みと炎症の抑制を図ります。


しかしながら、こうした保存療法を続けても痛みが改善せず、生活に支障が生じる場合は従来であれば、手術療法の検討が必要となります。


手術療法

手術療法には、関節鏡手術や骨切り術、人工関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)があります。



関節鏡手術は主に変形性関節症の原因である半月板の損傷がある場合に行います。


痛んでいる組織の切除、または縫合を行います。


膝に小さな穴を空けて内視鏡で内部の様子を見ながら手術するので体への負担が比較的少ないというメリットがあります。


 

骨切り術は、比較的若い方やアクティブなライフスタイルを志向する患者さんに適応を検討します。


すねの骨の一部を切ってO脚を矯正することで、膝の内側にかかっている体重のバランスを膝全体に分散させる方法です。


自分の膝関節を温存することができ、治療後は日常生活動作やスポーツも可能になりますが、骨を切った箇所が接合するまでには時間がかかります。



人工関節置換術は痛みの原因となっている関節を切除して、人工物に置き換えます。


膝関節をすべて人工のものに置き換える全置換術、傷んだ部分だけを人工のものにする部分置換術があります。


骨切り術に比べリハビリテーションの期間が短く、より一般的な手術ですが、膝に負担のかかるスポーツは避ける必要があります。



加えて、どんな手術にも必ず合併症のリスクが有ります。


そんな中、保存療法の新たな選択肢となっているのが、患者さんの血液を利用した再生医療ACP PRP療法です。

日帰り短時間で受けられるACP PRP療法とその除痛作用

Q

ACP PRP療法とはどんな治療ですか?

A

ACP PRP療法は、患者さんの血液を利用した再生医療PRP療法の一種です。


血液中から抗炎症や軟骨保護作用がある成分を抽出したPRPです。


その特性から特に変形性膝関節症の治療に欧米で2012年頃から広く利用が進み、最近では日本でも利用されるようになってきました。


ACP PRP療法の作用について、研究は進んでおり、メカニズムについて分かってきています。


変形性膝関節症の主な痛みの原因の1つは軟骨のすり減りにより発症した関節炎によるものです。


関節炎は主に滑膜にいる細胞の働きによって制御されていますが、変形性膝関節症の患者さんの膝ではその働きが異常をきたしています。


ACP PRP療法はその異常化した細胞の働きを正常化することで、炎症や痛みの原因となる物質の生成を抑え、逆にからだの維持に働く物質の生成を促す環境に整えます。

Q

ACP PRP療法は安全ですか?

A

ACP PRP療法は患者さん自身の血液を材料としているため、アレルギー反応の心配がなく、再生医療の中では安全性が高い治療です。


副作用については、他のPRP療法では注射後に関節が腫れる場合がありますが、ACP PRP療法は炎症の原因物質を除去しているため、そのリスクも比較的少なく穏やかです。


注射後数時間から2日程度まで治療を受けた関節が重だるく感じる場合がありますが、それも正常な作用過程の1つですので心配はありません。


治療後、歩いて帰っていただいて差支えありません。

Q

膝痛へのACP PRP療法の適応について教えてください。

A

ACP PRP療法は副作用がほとんどなく、膝の痛みの改善が期待でき、再生医療の中では比較的手の届きやすい治療の1つですが、それでも国内では自由診療扱いのため、保険診療で受けられる治療よりは高額になりがちです。

そのため、まずは、主にヒアルロン酸注射など保険診療で受けられる薬物治療と運動療法などの保存療法を試してみて、それでも効果がなく、患者さんが手術を希望しない、または手術が適当ではない場合に行っています。


その他、変形性膝関節症ではなくても、膝の酷使などにより、膝に水が溜まっている場合も痛みの改善や水腫の低減が期待でき、ACP PRP療法を勧めています。


医師の診断により、半月板などの関節内の構造物の損傷がある場合、また、軟骨のすり減りがある場合、変形性膝関節症が重度に進行している場合などは手術の方が適当な場合があります。

ACP PRP療法の流れとその効果、注意点

Q

治療の流れを教えてください

A

治療回数は基本的に3回セットとして行いますが、仕事の都合やその他の事情などにより、投与間隔や期間、回数は調整可能なため、患者さんによって来院頻度は異なります。


治療当日は上腕から少量の採血を行い、採血から15分程度で関節に注射を受けることができます。

Q

どのような効果が期待できますか?

A

異常な炎症を抑制することで膝の腫れや痛みの改善の他、水腫の低減が期待できます。


個人差があるので一概には言えませんが、多くの患者さんは1-2週間頃から効果について実感を得やすいです。


作用期間についても3回の注射で1年間痛みを改善する作用があるとされていますが、これも個人差があり、一概に言えません。


また、グレード4といわれる変形性膝関節症の末期の患者さんは長期的な作用は実感しにくいと言われています。

Q

ACP PRP療法を受けられない方はいますか?

A

医療機関によって考え方は多少異なりますが、一般的にご自身の血液を使った治療法のため、ご病気の内容によっては治療が適切ではない場合があります。


また、関節リウマチなどでは、血液中に炎症成分が通常よりも多く含まれる可能性があるため、治療に適していないと言われています。


がんの治療中などで感染に極度に弱くなっている患者さんも治療を受けていただくことはできません。


それ以外では、治療を受けられない方は特におらず、年齢制限も特になく、体に負担の少ない治療のため、高齢者の方でも治療を受けることができます。

Q

ACP PRP療法を受けた後の変化や生活上の注意点などはありますか?

A

注射数時間後から注射を受けた関節に重だるさやこわばりを覚えるかもしれませんが、ほとんどが生活に支障のあるレベルではなく、2日程度で自然消失します。


治療当日もそのまま歩いて帰っていただいて問題ありません。


その他、あまり膝を動かしていないと関節の周りの筋肉は落ちているので、痛みが改善して急に激しい運動をするとケガをしてしまう可能性があります。


ウォーキングなどから徐々に活動レベルを上げていくようにしてください。

Q

最後に、ACP PRP療法に興味を持っている方にメッセージをお願いいたします。

A

今迄は、保存療法が無効と判定されたら、手術以外の選択肢はありませんでした。


ACP PRP療法のような比較的利用しやすい再生医療が選択肢に加わったことで、患者さんの望むライフスタイルやその他の事情に合わせ、柔軟な治療を行うことができるようになってきました。

膝の痛みに悩んでいる方は、ご自身にとって最適な治療について是非相談ください。