ACP PRP療法の3つの柱。膝の痛みだけではなく、様々な整形外科疾患やケガの新たな治療選択肢。

橋口 津 先生

ご略歴

整形外科センター西能クリニック 整形外科部長

プロフィール

高知医科大学卒業後、京都府立医科大学整形外科入局。社会保険京都病院、京都武田病院を経て、現在に至る。

資格認定等

日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、カターレ富山チーフチームドクター

本インタビューの概要

近年、整形外科では患者さんの血液を使った再生医療のPRP療法が行われるようになってきました。

そして、その1つとして、血液中の赤血球などの組織を壊す成分を取り除き、良い成分を抽出したACP PRP療法が注目されています。

ACP PRP療法はその組成から、変形性膝関節症の新しい治療として利用されてきましたが、その他にも実はなかなか改善が見込めない筋肉や腱の疾患、アスリートのケガの治療にも利用されています。

今回は、関節やアスリートの治療経験豊富な整形外科センター西能クリニックの橋口先生に、ACP PRP療法のメリット・デメリットなど、詳しく伺いました。

血液の持つ、治癒に関連した成分を抽出し、炎症を抑制するACP PRP療法

Q

ACP PRPとはどんな治療ですか?

A

PRP療法といえば、血液中の成分の血小板に主に含まれる“よい”タンパク質の作用を利用した治療ですが、ACP PRP療法は、PRPに混入すると作用の邪魔になる可能性のある赤血球と好中球の除去をおこなうことで抗炎症作用を高めた治療法です。


血小板などから放出された成長因子と血漿(けっしょう)由来の様々なタンパク質を一緒に供給することにより、異常な炎症による痛みの緩和や、組織の修復が期待されています。


ACP PRP療法は15mlと少ない採血量かつ15分程度と短時間の処理が可能なため、身近な再生医療の1つとして、2012年頃から欧米で広く利用が進み、すでに多くの臨床試験が行われています。


最近では本邦でも国に届出が受理された医療機関で治療(自由診療)が行えるようになりました。

Q

整形外科のどのような病気に対して、ACP PRP療法は有効ですか?

A

私は、3つの目的でACP PRP療法を行っています。


1つ目は変形性膝関節症などの関節の病気です。


これらの病気に対しては痛みやこわばり、水が溜まるなどの症状の改善と病気の進行の抑制を目的に行っています。


すり減った軟骨や変形した骨などの治癒は目的にしていません。


具体的には、変形性膝関節症の他の手関節や足関節の関節症にも効果が期待できます。



2つ目はテニス肘(上腕骨外側上顆炎)などの慢性化した腱や筋肉、靭帯の障害の治療です。


これらの病気に対しては、痛みの改善の他、組織の治癒自体を目的としており、手術の回避の可能性があると期待しています。


具体的には、ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)、野球肘(肘内側側副靭帯損傷)、アキレス腱炎、ジャンパー膝(膝蓋腱炎)などに適応しています。



3つ目はスポーツなどで生じた外傷の治療です。


これらに対しては治癒期間の短縮することにより、スポーツ活動へ早期復帰することや、慢性化してケガが治りにくくなることを回避する目的で行っています。


具体的には、肉離れ、捻挫、靱帯損傷などに適応しています。

なかなか治らない痛みやケガの治癒が期待できるACP PRP療法

Q

変形性膝関節症などの関節の病気にACP PRP療法はどのような作用があるのですか?

A

ACP PRP療法の治療対象の病気として、最も一般的なのが変形性膝関節症です。


そのため、研究は進んでおり、作用メカニズムについても分かってきています。


変形性膝関節症の主な痛みの原因の1つは軟骨のすり減りによって発症した“関節炎”によるものです。


滑膜には神経が多くあるので、関節で炎症が起きると痛みを感じます。


一般的には関節炎は主に滑膜にいる細胞の働きによって制御されていますが、変形性関節症では、その細胞が異常化して慢性的に炎症が起きている状態になってしまいます。


ACP PRP療法はその異常化した細胞の働きを正常化することで、炎症や痛みの原因となる物質の生成を抑え、逆にからだの維持に働く物質の生成を促す環境に整えます。

Q

テニス肘などの慢性の腱や筋肉、靭帯の障害に対してはACP PRP療法はどのような作用があるのですか?

A

慢性の腱や筋肉、靭帯の障害では、ケガの反復や、加齢などにより、組織を維持するために働いている細胞が減ったり、血流が少なくなったりすることにより、組織がもろく、なかなか治りにくい状態になっています。


症状として、慢性的な炎症が起きたり、痛みを感じたりするようになる他、ちょっとした拍子に断裂をおこし、最悪手術となる場合があります。


ACP PRP療法は、成分に含まれるタンパク質の働きにより、周囲から細胞を集め、組織や血流の改善に働き、組織の質自体を改善することが期待されています。


これまでの保存療法ではどうしても痛い場合は対処療法的にステロイド剤を打って痛みに対処し、同時に運動療法によって組織を使うことで体本来の治癒力を使って治療してきました。


しかし、ステロイド剤は炎症を抑える一方で、組織の治癒に必要な新陳代謝を阻害してしまうというデメリットがあり、繰り返しの使用は慎重を要します。


そうしたリスクをなしで炎症を改善し、組織修復を促すACP PRP療法は、休めない体を使ったお仕事をされている方やスポーツ愛好家の方にとって適した治療法だと思います。

Q

スポーツ時のケガに対してはACP PRP療法はどのような作用があるのですか?

A

肉離れに代表されるスポーツ時のケガの多くは適切な処置をすれば、自然と回復していきます。


しかし、試合などで十分に休みが取れないでスポーツ活動を継続したり、また重度のケガで組織に断裂が生じたりしている場合などは、治癒の遅れや再発の原因となり、最悪の場合、慢性化して治りにくい組織になってしまいます。


ACP PRP療法は、上述のように組織の治癒を促進することで、早期のスポーツ活動復帰や慢性化の防止に効果があると考えられています。

ACP PRP療法の具体的な治療手順やメリット・デメリットについて教えてください

Q

ACP PRP療法は安全ですか?

A

ACP PRP療法は患者さん自身の血液を材料としているため、アレルギー反応の心配がほとんどありません。


再生医療の中では安全性が高い治療です。


副作用については、PRPといえば注射後に関節が腫れる場合がありますが、ACP PRP療法は炎症の原因物質を除去しているため、そのリスクも比較的少なく穏やかです。


注射後数時間から2日程度まで治療を受けた関節が重だるく感じる場合がありますが、それも正常な作用過程の1つですので心配はありません。


一方で、筋肉や腱に対して直接ACP PRP療法を行う場合は、狭いスペースの中に液体を注入するので、関節に注射するよりも痛みを感じる場合があり、必要に応じて注射する場所に麻酔を行います。

Q

実際の治療の手順について教えてください。

A

入院の必要はなく、短時間の日帰りで受けられる治療です。


ACP PRP療法をご希望の患者さんは治療2週間前から、血小板に影響する消炎鎮痛剤などの薬を中止する必要があります。


その間、痛みが問題になる様であれば、血小板に影響のないと考えられている別の薬に変更します。


予約当日はまずは、上腕から少量(15ml)採血を行います。その後、遠心分離機にかけ、ACP PRPを抽出、関節内に注射し、1回の治療は完了となります。


筋肉や腱に注射を行う場合は、エコーなどで病変部を確認しながら、注射を行うことが多いです。採血から治療を受けるまでの待ち時間は15分程度です。


また、基本的には、一定間隔あけ、これらの治療を繰り返し2-3回程度行いますが、病気の種類や程度によって異なる他、仕事の都合やその他の事情などにより、投与間隔や期間、回数は調整可能なため、患者さんによって来院頻度は異なります。

Q

ACP PRP療法を受けた後の変化、生活上の注意点はありますか?

A

注射当日は患部に刺激が加わるようなことは控えるようにします。


だたし、日常動作であれば特に支障はありません。


治療当日もそのまま歩いて帰っていただいて問題ありません。


患者さんによっては、注射数時間後から注射を受けた関節に重だるさやこわばりを覚えるかもしれませんが、ほとんどが生活に支障のあるレベルではなく、2日程度で自然消失します。


また、治療により痛みが取れると体を動かしたくなりますが、周囲の筋力が落ちていると急な激しい運動はケガの原因になります。


治療後の運動レベルについては医師と相談して進めましょう。

Q

ACP PRP療法を受けた後の変化や生活上の注意点などはありますか?

A

注射当日は患部に刺激が加わるようなことは控えるようにします。


だたし、日常動作であれば特に支障はありません。


治療当日もそのまま歩いて帰っていただいて問題ありません。


患者さんによっては、注射数時間後から注射を受けた関節に重だるさやこわばりを覚えるかもしれませんが、ほとんどが生活に支障のあるレベルではなく、2日程度で自然消失します。


また、治療により痛みが取れると体を動かしたくなりますが、周囲の筋力が落ちていると急な激しい運動はケガの原因になります。


治療後の運動レベルについては医師と相談して進めましょう。

Q

最後に、ACP PRP療法に興味を持っている方にメッセージをお願いいたします。

A

従来の治療法で効果に限界を感じていたり、手術以外の方法や手術までの時間をできるだけ延長したいと考えている場合は、PRPを選択肢の一つとして考えていただければ幸いです。