なかなか治らない慢性腰痛に対する新しい治療 ACP PRP療法

明田 浩司 先生

ご略歴

三重大学医学部附属病院整形外科 講師/ 岩崎病院

プロフィール

三重大学医学部附属病院、名張市立病院、三重県立草の実リハビリテーションセンター、Rush Medical College Orthopedic Surgery Spine Research Instructorを経て現在に至る。三重大学医学部附属病院ではPRPを使った腰痛の治療に関する数多くの研究を行う。

資格認定等

日本整形外科専門医、日本脊椎脊髄病学会指導医

本インタビューの概要

腰痛は国民病と言われるほど有訴者が多く、男性では1番目、女性でも肩こりに次いで2番目に訴えの多い症状で、その数は増加傾向にあると言われています。

中でも慢性腰痛は腰痛が3か月以上続いているものを指します。

その原因は多岐に渡るとされていて、正しい診断と状態に合った適切な治療が必要です。

近年では、患者さんの血液を使ったACP PRP療法などの再生医療が腰痛の治療選択の一つとして加わってきました。

そこで、脊椎の専門医であり、腰痛に対してのPRP療法研究の第一人者である明田先生に腰痛とその原因、治療法について教えていただきました。

腰痛の原因と治療方法

Q

慢性腰痛とは何ですか?

A

慢性腰痛は小児から大人まで全年齢層に認められる症状であり、日常生活を障害する重要な原因の一つである。


2015年のWHOの発表によると、日常生活動作を障害する腰痛の世界時点有病率は7.3 %であり、全世界で5億人が慢性腰痛に苦しんでいると報告されました。


腰痛の発症には様々な要因が関連しており、その原因を特定することが困難な例が多いとされています。


腰痛には身体的要因、遺伝的要因、心理的要因、社会的要因が関連することが明らかになっています。


脊椎の解剖から考えると、椎骨と椎骨の間に介在する椎間板の変性が慢性腰痛の発症に関連することが知られています。

Q

慢性腰痛の治療方法にはどのようなものがありますか?

A

腰痛はさまざまな原因によって発症することから、適切な診断が特に重要です。


医療機関では問診や診察、X線検査やMRI(核磁気共鳴画像法)などの画像検査などを行い、病因を特定していきます。


それでも原因がはっきりしない場合は、心理・社会的要因や神経障害性疼痛の可能性も考慮し、治療法を選択します。


慢性腰痛の治療は、主に保存療法(手術をしない治療)と手術療法に分けられますが、治療の基本となるのは保存療法です。手術療法は痛みの原因が悪性腫瘍など命に係わる病気だった時や、そうでない場合でも痛みが軽減せず、日常生活に支障をきたす場合に選択肢となります。保存療法の中でも運動療法などが中心となる理学療法が有効とされており、第一選択となります。体幹の筋力強化やストレッチによる柔軟性の強化を行い、生活習慣などによって生じた体のアンバランスを改善します。


しかしながら、痛みで日常生活における活動性も低下してしまうような場合は、痛み止めの内服薬や湿布などを利用します。特に痛みが強い場合、麻酔注射を行い、一時的な痛みの抑制を行う場合もあります。


心理・社会的要因が患者さんの日常生活に悪影響を及ぼしていると考えられる場合には、認知行動療法も検討します。認知行動療法は、痛みまたは痛みに影響する要因に対してどのように認知し行動するべきかを知ることを通して、自分自身の痛みをコントロールできる能力を身に着ける目的で行われます。治療は、臨床心理士、医師、看護師などが連携して行います。


手術療法は痛みの原因によって様々な方法がとられますが、目的は大きく3つに分けられます。


1つは除圧術です。


加齢による筋力や組織自体の衰え、偏った体の使い方などにより、背骨(脊柱)が、異常に曲がってしまうと、神経が圧迫され痛みを引き起こします。除圧術では神経圧迫の直接の原因になっている骨を取り除いたり、ずらしたりすることにより、その負荷を取り除く目的で行います。最近では、内視鏡を使った手術も行われてます。


2つ目は固定術です。


除圧だけでは、症状の再発可能性が高い場合には、患者さんの骨盤などから骨を移植し、問題となっている椎骨(背骨を構成する骨の1つ)と隣り合う椎骨を一つの骨として繋げてしまいます。骨が固まるまで数か月かかるため、スクリューやプレートなどの金属を使用し、固定の補強を行います。


3つ目は矯正術です。


外傷や先天性の脊椎の変形がある場合には変形を矯正し、それを維持するためにスクリューやプレートを使いより強固に固定します。いずれの手術も再発や合併症の可能性は避けることができず、保存療法が無効となってしまった段階でもなかなか受けるのを躊躇する患者さんが多くいらっしゃいます。


しかしながら、最近ではACP PRP療法などの再生医療が慢性腰痛の治療にも応用されるようになり、保存療法と手術療法の中間に位置する有力な治療選択肢として考えられるようになってきました。

手術ではない新たな治療ACP PRP療法

Q

PRPとACP PRP療法について教えてください。

A

PRPはPlatelet-rich plasmaの頭文字を取ったもので、日本語で多血小板血漿といい、患者さんの血液を遠心分離し赤血球を取り除き、血小板を濃縮した液体のことを指します。


これを炎症や痛みが起きている個所に注射することで、その症状の改善と治癒促進が期待されています。


本邦では変形性膝関節症などの膝の痛みや筋肉や腱などの治癒促進に使われていますが、腰痛にも応用されるようになりました。


ACP PRPは赤血球や白血球の一種の好中球などの不純物を99%除去し、純度を高めたPRP療法の一種です。


一般的にはPure-PRPと言われています。


ACP PRP療法による慢性腰痛の治療では、持続する炎症が原因で痛みを感じやすくなってしまった腰痛の原因部位にACP PRPを注射することにより、痛みの緩和作用が期待できます。

Q

どのような腰痛患者さんが適応になるとお考えですか?

A

ACP PRP療法の主な適応となる方は、3か月以上保存療法を行っても改善しない慢性腰痛の方で画像検査や問診、診察により痛みの原因が特定できる方がこの治療の対象となります。


具体的な疾患名では、上殿皮神経障害、椎間板変性、仙腸関節炎などが対象となりますが、その他の疾患でも治療対象になる可能性がありますので、医師にご相談ください。

ACP PRP療法の具体的な治療手順やメリット・デメリットについて

Q

ACP PRP療法の治療の流れを教えてください。

A

治療は、採血、遠心分離、注射の3ステップで行われます。


患者さんの腕から15mlの採血を行い、約15分後に患部に注射を行います。


注射個所によって、X線透視やエコーを使い正確に注射します。様々な再生医療がありますが、少量(15ml)の採血で当日治療を受けることができるため、負担の少ない部類の治療と言えます。

Q

ACP PRP療法のメリットとデメリットは何ですか?

A

メリットとしては、第一に安全性の高さと少ない身体負担があげられます。


ACP PRP療法は患者さんの血液のみを材料としているため、アレルギー反応の可能性が少なく、安全性が高い治療ということが言えます。


15mlの採血と注射のみで短時間で行うことができるので、お仕事を休めないという方も受けることができます。


一方で、再生医療の中では手を出しやすい治療の一つとはいえ、日本ではまだ保険外の治療のため、保険診療に比べると治療費が高額になりがちな点がデメリットと言えます。


価格も施設により様々ですので、十分説明を受け、納得した上で治療を受けた方が良いでしょう。

Q

ACP PRP療法を受けられない患者さんはいますか?

A

癌の治療中で免疫機能の弱まっている方や関節リウマチなどの炎症性の疾患の方は治療を受けていただくことはできませんが、年齢制限はなく、高齢の方も治療を受けることができます。


処方されている消炎鎮痛剤などを飲んでいる方は一時的にお薬を切り替えたり、止めたりする必要がある場合があります。

Q

効果はどれくらいで現れますか?またくり返し行っても問題はないのでしょうか?

A

個人差はありますが、平均的には治療後2週間から反応が見られる方が多いです。


ACP PRP療法によるくり返しの治療は問題ないとされていますが、患者さんのご希望によって、投与頻度や間隔は調整可能です。


効果の持続性については、個人差はありますが平均的に1回の治療で半年程度症状の緩和に効果があると考えています。


痛みの緩和が見られたころから、運動療法を併せて行うことでより長期の症状緩和も期待できます。

Q

ACP PRP療法を受けた後の変化や生活上の注意点などはありますか?

A

注射当日の入浴は避けていただきますが、日常生活動作の制限は特にありません。


治療当日もそのまま歩いて帰っていただくことも可能です。注射直後から数時間注射を受けた場所に熱感や軽度な痛みを覚えるかもしれませんが、2日程度で自然消失していきます。


そのほか、日常的に消炎鎮痛剤を使っている方は、薬の中に血小板の働きを抑えるものが含まれている場合もあるため、担当医師に予め伝えることが大切です。

Q

腰痛で困っている方へのメッセージをお願い致します

A

ACP PRP療法は患者様ご自身の血液を用いるため、安全性の高い再生治療です。


これまでの経験からACP PRPは腰痛を著しく改善させる効果があると実感しております。


腰痛にお困りの患者様は是非、ご連絡ください。